要望書 「個人向けデジタル化資料送信サービス」の海外在住者への開放について
国立国会図書館長 倉田敬子 殿
現在、英国⽇本研究協会(British Association for Japanese Studies, BAJS)、ヨーロッパ日本研究協会(European Association for Japanese Studies, EAJS)や、豪州日本学研究会(Japanese Studies Association of Australia, JSAA)等、海外の日本研究者たちで構成された学術組織より国立国会図書館に対して、「個人向けデジタル化資料送信サービス(個人送信)」を海外在住者に開放してほしい旨の要望が寄せられています。私たちは、この要望の重要性を認識し、日本近代文学会理事会としても同様のお願いを申し上げます。
日本近代文学会の会員は現在1400名超で、海外在住会員も65名おります。同じ会員でありながら、研究の環境に大きな違いができてしまっている状況です。国際的な共同研究を組織する際にも、個人送信が使えない海外メンバーとの間では、基本的な資料の共有にも大きな困難が生じます。既に「図書館向けデジタル化資料送信サービス」の海外参加館はありますが、その恩恵を受けられる国と地域はわずかです。海外の研究者が一時的に日本に滞在して研究している時でさえ、居住地が日本でないために個人送信は使えず、不便さに変わりがありません。また、大学院を修了した留学生たちから、帰国後に研究を継続する際の資料調査の困難を訴える声もしばしば耳にします。個人送信の海外在住者への開放は、絶版等入手困難となった多くの日本語出版物へのアクセスを可能とすることで、海外における日本研究の教育、研究環境を大きく改善する契機となりえます。
近年、海外の研究者からは日本研究の弱体化への危機感の訴えも届きます。日本研究の環境的困難が継続すれば、海外における日本研究の弱体化にさらに拍車がかかる怖れさえあります。個人送信の海外在住者への開放は、海外の日本研究者や日本文化に関心を寄せる人々へ大きな利便性を届けることになるのみならず、海外の研究者との国際的な研究連携を行う日本の研究者にとっても、共同研究のための重要な基盤となります。今後、日本研究の世界もデジタル資料の利用が加速していくだろうことを考えれば、なおさらです。
日本国内、および送信相手国の著作権法上、懸念があることも理解しております。「個人向けデジタル化資料送信サービス」の海外在住者への開放は、今後の世界諸地域における日本研究の一層の隆盛につながるものと信じ、この要望を提出いたします。
2025年6月15日
日本近代文学会理事会
代表理事 久米依子