第114集「「戦後八〇年」と近代文学研究」のお知らせ

 日本の近代は戦争を抜きにして語ることができない。作家たちも戦争を繰り返し描いてきた。かつて集英社から刊行された『コレクション 戦争×文学』全二〇巻・別巻(二〇一一〜二〇一三年)は、日本近現代文学の歴史が戦争文学の歴史であったことを再認識させた。
 近代文学研究においては、戦時下の作家たちの営為を〈協力か抵抗か〉という二項対立で捉えてきた歴史があるが、現在の文学研究ではそうした図式的な評価は見られなくなっており、個別具体的な文脈に照らして作家や作品を丁寧に検証する研究が増えている。
 二〇二五年は日本がポツダム宣言を受諾し、アジア太平洋戦争が終結してから八〇年目となる。文学と戦争の関係を問うテーマはこれまでも幾度となくあったが、この節目に改めて戦争文学研究の枠組みや方法それ自体を問う〈 「戦後八〇年」と近代文学研究〉を特集テーマとして設定したい。
 本企画は、 「戦後八〇年」を自明視するものでも、アジア太平洋戦争だけを対象とするものでもない。 「戦後」が一九四五年八月に終わった「あの戦争」を指し続けることで、その前も後も継続していたはずの暴力を不可視化した問題を含め、 「戦後の平和」という認識を内面化した「戦後文学」研究の限界や、それを批判的に捉えなおしたポストコロニアル研究、ジェンダー研究の蓄積など幅広い再検討が想定される。
 そもそも二〇二五年は日清戦争が終結してから一三〇年、日露戦争が終結してから一二〇年を迎える年でもある。近代日本がかかわった様々な戦争の記憶を文学がどのように語ってきたのか、また何を語ってこなかったのか。戦争体験者は、年々減少し、 「体験者ゼロ」という現実も遠い未来ではなくなっている時点において、非体験者による戦争の描き方や架空の戦争表象など、文学研究における戦争をめぐる問い方も様々な更新が求められる。戦争体験の記憶とトラウマ、戦時と平時の連続性を明らかにした歴史学や社会学の知見にも影響を受けつつ、これから文学研究がどのように戦争にかかわっていくのか、それがいま問われている。広い視野で戦争と文学を問う論考の投稿を期待したい。

*原稿の締切は、2025年10月1日です(第114集は2026年5月15日発行予定) 。
*原稿の字数など様式については、 『日本近代文学』投稿規定に準じます。ご送稿の際、 「特集」の投稿であることを示して下さい。第114集は、自由論文もあわせて募集しています。

                                    日本近代文学会編集委員会